映画「イヴ・サンローラン」
こんにちは、東京の水玉オリジナルバッグブランド「Saori Mochizuki(サオリモチヅキ)」のデザイナー望月沙織です。
本日は、日本公開から間もなく1ヶ月を迎えるイヴ・サンローランの伝記的映画について、です。もう既にご覧になった方も沢山いらっしゃると思いますが、わたくしは観ていて色んなことに心がざわざわしてしまったので、筆をとらせていただきました。
歴史的なデザイナーに嫉妬するなんて馬鹿げているとは思いますが、イヴ・サンローランと自分の間に横たわる大きくて深い溝に、今日は触れてみたいと思います。
下のモノクロ写真にうつっているのがイヴ・サンローラン本人。上のカラーがピエール・ニネ演じるイヴ。長年のパートナー・ピエール・ベルジェも「そっくりすぎて混乱した」と評するほどの激似ぶりでびっくりしました。
「イヴ・サンローラン」
あなたは目撃する。
永遠のエレガンス誕生の瞬間を。
ブランドを運営して行くために、重要なことってなんでしょうか。
デザインを考える能力?
縫製技術?
それらは確かに重要ですが、わたくしはそれを遺憾なく発揮するためにはやはりお金が必要ですし、支えれくれるチームも重要だと思っています。
クリスチャン・ディオールに才能を見出され、彼の急死後、21歳という若さでブランドを任されたイヴ・サンローランは、フランス陸軍への入隊を余儀なくされ、そこで精神に破綻をきたし、軍の精神病院に入院させられます。
それがきっかけとなり、彼はディオール社から放り出されてしまうのですが、その時に彼の思いを支えて経済的基盤作りに奔走したのが、パートナーのピエール・ベルジェやディオールのミューズだったモデルのヴィクトワールでした。
才能に溢れていて静かな情熱を心に秘めているけれど、少年のように繊細でとても危うい雰囲気を醸し出すイヴは(というか実際に当時はとても若かったですし)、おそらく誰もが思わず手を差し伸べたくなる存在だったのではないでしょうか。
わたくしは、そもそもが甘え下手ということもありますが、どこか自分のことを過信していて、なかなか物事を自分の手から離すことができません。
1人で行き詰まっている、誰かに手伝ってほしいと言いつつも、心のどこかで「自分のやり方が1番!」と思っているふしがあり、他人に手を出されるとついつい「自分ならもっとうまくやるのに」と感じてしまいます。
そしておそらくその雰囲気は、わたくしの周りに見えない壁となって立ちはだかり、無意識のうちに人の手をはねつけていた部分があったのではないかと思います。
最近になってようやくそんな自分に気がついたわたくしの目には、イヴのまとう「ほっとけない」感は大変うらやましくうつりました。
それはもちろん、確固たる才能があってこその話だと思いますが、才能に満ちあふれている人でも、誰からも手伝ってもらえない人もいます。その理由は様々だと思いますが、わたくしはどうせだったら思いを共有できる人の意見には素直に耳を傾けたいですし、そういう人から、「あの人と一緒に仕事をしてみたい!」と思ってもらいたいと思っています。
さてそうするために、わたくしはまず「自分が1番できる」という思い込みから解放されないといけないと思うのですが、40年近くそういう思考回路で生きてきてしまったので、まー、なかなか大変です。
自分が1番できると思ってるだけで、実は1番できてる訳じゃないっていうのもタチが悪い。
どうにかして、そんな自分から脱出をはかりたいと思っています。
ちなみに、映画全体としては、スッキリきれいで過不足なくイヴの人生を網羅したという印象で、わたくしには少々もの足りませんでした。いやいやデザイナーって、もっともっと苦しんでいるでしょ、って思ってしまって。
確かに、イヴ・サンローラン財団とピエール・ベルジェの全面協力による数々のファッションショーのシーンは圧巻でしたが、ちらりと垣間見えたイヴと母親との葛藤や、生まれ故郷・アルジェリアとフランスとの板挟みに苦しむ姿、宿敵カール・ラガーフェルドとの人間模様など、彼のデザインの根幹にあるぐちゃぐちゃした闇の部分をもう少しみたかったなと思いました。
なお驚くことに、2014年9月末から、本国フランスではイヴに関する映画がもう1本公開されています。
「サンローラン」(原題:Saint Lauren)というそのものズバリの題名なんですが、こちらの映画はいわゆる「非公認」。
何の断りもなく撮ったことにピエール・ベルジェが激怒した、なんてウワサもきかれておりますが、宣伝用の写真を見る限り、ギャスパー・ウリエル演じるこちらのイヴは、人をおちょくるような表情で笑っていて、ぬらりと妖しく、わたくしがのぞんだドロドロをみせてくれるような期待感に満ち溢れていました。
その分、劇中に登場するサンローランのお洋服等は、全て1から自前で作らねばならなかったと思うので、それはそれで大変だったと思いますが、その分ピエール・ベルジェに気を遣うことなく、色んなことを描ききれたのではないでしょうか。
こちらの映画は残念ながら日本公開未定とのこと。うーむ。なんとか観るスベはないかな。フランス語は全く分かりませんが、でもフランス語版でもいいので、なんとかして一度絶対に観てみたいと思いました。
見比べられた暁には、また感想を書いてみたいと思います。
東京「日常をドラマチックにする」バッグ
Saori Mochizuki
デザイナー 望月沙織
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今日の記事でご紹介した映画の詳細情報はこちら
『イヴ・サンローラン』
角川シネマ有楽町他で全国ロードショー中
監督:ジャリル・レスペール
出演:ピエール・ニネ、ギョーム・ガリエンヌ
2014年/フランス/カラー/シネマスコープ/106分
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