ホロコーストを否定してまで手に入れたい愛とは?/映画「否定と肯定」2017年12月公開
こんにちは、東京の水玉オリジナルバッグブランド「Saori Mochizuki(サオリモチヅキ)」のデザイナー望月沙織です。
映画「否定と肯定」を観てきました。
これ、原題は「DENIAL」という単純な一語で表現されています。
この単語には「否定」や「否認」、「拒絶」といういくつかの訳が当てられますが、わたくしはその中でも「拒絶」が一番今回の映画にピッタリの言葉なんじゃないかな、という気がしました。
ホロコースト研究者の主人公デボラ・E・リップシュタットを名誉毀損で訴えたデイヴィッド・アーヴィングという人物は、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の否定のみならず、人種差別・男女差別すらも平気で口にする人物です。
とにかく凸彫りのように、自分の周りのものを拒絶してそぎおとしていくことで、やっと自分の存在が浮き彫りになる。
ホロコーストを拒絶してまで存在を認めてほしいとは、一体この人は、どれだけ受け入れてもらえない人生を送ってきた人なんだろう、と、違った意味でとても興味が湧きました。
人は、自分が受けてきたやり方でしか、人に接することができません。
おそらくこのデイヴィッド・アーヴィングという人は、子どもの頃、何をやっても認めてもらえなかった過去がある、もしくはなんでも心を開かず、拒否してかかる大人に囲まれて育ってしまったのではないでしょうか。
リップシュタットを訴えたのも、たとえネガティブな言動が元になっていたとしても、そうやって騒ぎを起こすことで自分の「学者」としての存在価値を世に知らしめたいと思っているから。
こういう面倒くさい形の「かまってちゃん」タイプの人間は、無視されるのが一番堪えます。
実際、「彼の思うツボだから、裁判は受けて立たない方がいい」と、リップシュタットにアドバイスする人もいました。
でも、内容が内容だけに、無視できない。
ゆえに彼女は弁護団を組んで立ち向かいます。
しかし弁護団もノコノコと法廷に出て行った訳ではありません。
ホロコースト生存者やリップシュタット本人に法廷で証言させない、など、アーヴィングが最も「拒絶したい」であろう対象を彼の眼の前から徹底的に遠ざけます。
ここぞという時は、アーヴィングのかまってちゃん欲をあえて満たしてあげることで、自分たちに有利な選択肢へと彼を誘導します。
もっともパンチが効いている!と思ったのは、ラスト、この裁判に結論が出た時の場面でして、弁護団側は、アーヴィングが求めてきたとあるものを、徹底的に無視しました。
わたくしはこのシーンが今回の映画の中で一番心に刺さりました。
その後、テレビで裁判結果を否定しまくっているアーヴィングの姿を見て、弁護団の一人、ジュリアスが「彼が一番得したね」的な軽口を叩くのですが、心の底からアーヴィングが哀れに思えてなりませんでした(後年アーヴィングは、この裁判が痛手となって破産します)。
そこまでして認めてほしい自分の存在価値って、一体なんぼのものなんでしょうか。
人間の、愛情への欲深さを改めて感じた作品でした。
ちなみにこの映画をきっかけにして新たに知って驚いたことが2つ。
一つは、イギリスでは、名誉毀損で訴えられると、訴えられた人間は「お前は名誉毀損という罪を犯した」ということが前提で話が進む、ということ。
ゆえに今回、「あいつが私の価値をおとしめた!」と言われたリップシュタット側が、訴えてきたアーヴィングに対して、「いやあんたの言ってることは、こことここがおかしいから、名誉毀損でもなんでもないんだよ!」と証明しなければならなかったのですが、日本(とリップシュタットが住むアメリカ)では一応大前提として、それとは真逆の推定無罪(疑わしきは罰せず)の視点に立って司法制度は組まれています。
最初から黒と思われているか、白と思われているか、はとても大きな違いで、なんでイギリスではこんなシステムが組みあがったのか、その理由が知りたくなりました。
それからもう一つ。
それは、ドイツとオーストリアでは、ホロコーストを否定することが法律で禁じられている、ということ。
これは、映画の後にちょっと調べたアーヴィングの経歴を見て知ったのですが(彼はホロコーストを否定した罪で、オーストリアで有罪判決を受けています)そこまで徹底されているとは知りませんでした。一応大学時代、ドイツ語を勉強していて、ドイツにも何度か行ったことがあるにもかかわらず、全くもって無知でした。。。
(おまけ)
年明けは、この映画がちょっと気になります。
中井貴一の喜劇俳優っぷり、わたくしは三谷幸喜のこの↓作品が大好きです。
これ、びっくりすることに、1時間半以上の全編1カットで撮られています。俳優にとっては(いや、スタッフもだな)とっても恐ろしい作品だと思います。「嘘八百」の予習(?)としてぜひ。
東京「日常をドラマチックにする」バッグ
Saori Mochizuki
デザイナー 望月沙織